伊藤先生の論文「日本人の維持透析中COVID-19患者に対するレムデシビルによる治療」がRenal Replacement Therapyに掲載されました
Ren. Replace. Ther. 8, 14 (2022).
https://rrtjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s41100-022-00404-9
Remdesivir administration for Japanese COVID-19 patients undergoing maintenance hemodialysis: a retrospective observation with six case reports
Ito Jun, Moritsugu Kimura, Tomoyuki Toya, Konomi Isozumi, Atsuro Kawaji, Yudai Isozaki and Masafumi Fukagawa.
2021年6月時点で、わが国の維持透析患者の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の致死率16.4%は、日本人全体のCOVID-19の致死率 1.8%と比較して著しく高値であった。また、その時点でCOVID-19治療のために承認されていた唯一の抗ウィルス薬レムデシビルは、同剤の可溶化賦形剤であるsulfobutylether-beta-cyclodextrinの蓄積とそれによる腎尿細管障害、肝障害のリスクが懸念されるため、GFR 30 mL/min/1.73m2未満の症例への投与は推奨されておらず、腎不全患者への治療選択肢は非常に限られていた。一方、同時期にインドから、レムデシビルの投与量を減量すること、透析のタイミングを工夫してその賦形剤を除去することにより、維持透析患者に対して安全に投与できたことが相次いで報告された。当院では2021年6月以降、それらの知見を参考に、維持透析中のCOVID-19中等症以上の患者に対して、投与方法を工夫しながら慎重にレムデシビルの使用を開始した。それ以前の症例も含めてわれわれが2021年9月までに経験した維持透析中のCOVID-19中等症以上の全11例を後ろ向きに観察した結果、入院時もしくはCOVID-19中等症の診断後すぐにレムデシビルを開始した症例は6例全員が治癒、レムデシビル非投与もしくは呼吸状態悪化後にレムデシビルを開始した症例は5例中3例が死亡していた。前者の6例について、詳細な臨床経過を提示した。当院のレムデシビル投与症例において、肝障害など、投与の継続が困難となる顕著な有害事象は認めなかった。日本人の維持透析中のCOVID-19患者に対して、有害事象なくレムデシビルによる治療を完遂できたことを示す、初の症例集積報告である。