第67回日本透析医学会学術集会・総会の報告
6月30日から7月3日にかけてパシフィコ横浜で開催された第67回日本透析医学会学術集会・総会の報告です。当院からは深川教授が座長として,和田先生,金井先生,島村先生が一般講演の発表者として,豊田先生,駒場先生がシンポジウムの演者として参加されました。
深川教授は座長を務めらた企画として「ガイドラインワーキンググループ委員会(CKD-MBD)企画 新しいCKD-MBDガイドラインは何を目指すか」,「腎不全総合対策委員会企画 SDGsを踏まえた腎不全患者のQOLを再定義する」,企業共催シンポジウムでは「CKD-MBDトータル管理 ~これからのP,Ca,PTH管理をどう考えていくべきか?~」,「CKD-MBD治療のベストプラクティスを考える」,「透析合併症から考える透析液組成」等多数があります。駒場先生が演者として発表されたCKD-MBDガイドラインの意義や管理方法についてのみならず,透析患者のQOLについては,患者報告アウトカム(PRO),アレキシサイミアなどの新たなアプローチの紹介もありました。
和田先生による発表「一般人口と比較した透析患者のがん死亡リスク」:総務省統計局の2019年統計データを用いた一般人口のがん死亡データと,日本透析医学会WADDAシステム2019年出力データを用いた透析患者のがん死亡データを用いて,年齢階級・性別で調節した各種のがん死亡リスクをロジスティック回帰分析により検討しました。透析患者の腎尿路系がん,肝がんによる死亡リスクが特に若年層において高いことが判明し,今後の透析患者のがんスクリーニングの意義と方法の検討に資すると考えられる結果でした。
金井先生による発表「透析を要する重症患者が有する疾病構造の変化~Pandemic前後の調査:記述統計~」:2016年から2021年にかけて当院で人工腎臓等の治療を要した患者を対象に障害者加算における疾病分類を調査しました。6年間で4020名の患者が治療を受け,合併する最も多い疾病はうっ血性心不全であり次に重症感染症でした。経年的にこの傾向は変化しなかったが2019年以降から明らかな増加傾向を認めており,Pandemic下の医療ひっ迫等によって患者の重症化が知られておりわが国の高齢化を背景により顕著になっている可能性があります。
島村先生による発表「血液透析導入に伴う未分画ヘパリンの使用でヘパリン起因性血小板減少症(HIT)を来した二例」:透析導入時の2例のHIT発症を経験しました。透析導入時には急性全身性反応を起こすことがありHITとの鑑別が重要だが,HIT抗体は感度の問題もあり,抗体陰性でも臨機応変に対応する必要があるという教訓がありました。
豊田先生によるシンポジウム「CGMによる血糖モニターの有用性と新規モニタリング指標の必要性」:透析患者に対しても持続血糖測定(continuous glucose monitoring; CGM)を用いた血糖管理が広がりを見せており,2017年にCGM指標に関するコンセンサスレポートからもモニタリングすべき指標は多岐にわたります。CGMによる血糖モニターを透析患者に導入する際に知っておくべき知識や注意点について解説し,今後の新規モニタリング指標の必要性について紹介しました。
駒場先生による発表「ガイドラインワーキンググループ委員会(CKD-MBD)企画 新しいCKD-MBDガイドラインは何を目指すか」:CKD-MBDでは心血管合併症と骨折,死亡が重要なアウトカムとなるが,各患者にとって最も注意すべきアウトカムが何か,あるいはどこまで厳格にP,Ca,PTHを管理すべきかは,個人によって異なると考えるべきかもしれない。この「個別化」は各患者にとって最適で効率的な医療の提供が期待できる一方で,CKD-MBD管理を複雑化する可能性があり,今後予定されるガイドライン改訂に向け,アウトカム・管理目標・優先順位の「個別化」の意義と課題に関して考察しました。企業共催シンポジウムでは「CKD-MBDと腎性貧血の治療最前線 リン吸着薬の使用意義」,「透析合併症から考える透析液組成 透析液Ca濃度の選択とCKD-MBD管理」,「透析患者における二次性副甲状腺機能亢進症と体重減少,生命予後との関連性:DOPPS研究」,他ランチョンセミナーで講演を行いました。